Art and Face

アートの輝きを見つけるブログ

毛利悠子「グレイ スカイズ」藤沢市アートスペース 企画展 

f:id:tkhskor:20180128160349j:plain

2018年1月27日と28日に藤沢市アートスペースに行ってきました。

こちらのギャラリーは2015年にできたばかりの新しい施設です。

藤沢市や湘南地域にゆかりのある作家さんの展示を行っています。今回、拝見した毛利悠子さんも藤沢市出身のアーティストです。

地域限定にも関わらず、いつ伺ってもレベルの高い作家さんの展示をされています。

そして無料というのがとても嬉しいところです。今回の記事では写真撮影の許可がいただけたので、写真とともに私の感想を詳しく掲載します。

 

作品の良さをわかりやすく提供してくれる来場者目線の展示

展示室1に入ると、一番はじめの作品は

「Everything Flows:This is not Ocean」。

 

f:id:tkhskor:20180128160310j:plain

 

 

 

ロビーからすぐに見える位置に展示されています。

 

この作品、遠目にはジョッキビールに見えます。

(写真だと色が薄いですが、もっと小麦色しています)

 でも近づいてみると、ビールだと思っていたところは波打ち際の映像だとわかります。

「街の飲み屋で日常的によく見るジョッキビールかと思っていたら、波打際だったか」

と、まるで魔法にでもかかったような不思議な気持ちにさせてくれます。

湘南地域にはビーチがたくさんあり、海が好きな人も多いため美術に興味のない人も好感を持ちやすい作品だと感じました。

 

 

タイトルも作品の印象そのものですね。

Everything Flows は日本語で「全ては絶え間なく流れている」と行った意味合いだと思いますが(違ったらすみません)その後This is not Ocean「これは海ではない」という打ち消しが素敵です。「これはジョッキビールではない」と言わないところがかっこいいです。

 

f:id:tkhskor:20180128160437j:plain

この作品の美しさに気づいた時、私は一気に「毛利さんの作品をしっかり観たい」と感じました。

 

展示会に訪れた時「しっかり観よう」という意識になるのは意外に難しいです。

来場者に向けて、その仕掛けがしっかりしてあるというのは、とても素敵です。

来場者目線で展示されているなと、見る人に寄り添っているアーティストなのだと思いました。

 

光、音、時間を操る作家が魅せるー日常の美しさ

「Everything Flows:This is not Ocean」を過ぎると次の作品は

「Everything Flows1」「Everything Flows2」でした。

下記:「Everything Flows1」

f:id:tkhskor:20180128163734j:plain

 

下記:「Everything Flows2」

f:id:tkhskor:20180128163804j:plain

 

 

大きなオリジナルスクーリーン(板で作られていました。丸いスクリーンです)に投影された映像です。

 

この作品も印象は「美しい」ですね。

まず丸いスクリーンというのはあまり見慣れていないので、「なんだろう?」という気持ちになれます。板に投影しているのに映像の色が美しいのも驚きました。

 

映像は世界中の街をカメラを一箇所に固定して撮影されたようでした。

色味が綺麗だったり、動きがあったりと心地よい映像です。

パンフレットに「撮影地:青森、台北、ダラス、ニューヨーク、パリ、バルセロナ、ヒューストン、藤沢、ベルリン、香港、ロンドン。2014年から現在にかけて、旅先で撮りためた映像」とあります。

本当に日常のなんでもないシーンの切り取りでしたが、待ち合わせの時にボーと街を眺めている時間のような心地よさがあります。

 

 

個人的に映像作品というのは、

光=投影、映像

音=音声

時間=絶え間なく流れている

という人間の五感(時間は五感ではないが)を比較的数多く刺激する作品だと思います。そのために作品自体に一貫性がないとバラバラになりやすい表現方法だと思います。

その点、毛利さんの作品は「見せ方」が洗練されている上に、一貫性があるので伝わって来やすいです。

「Everything Flows」というタイトルもよく作品に連動していて、毛利さんがそうした流れる時間や世界の移り変わりに美しさを感じている方というのが伝わってるきました。(私はそう感じました)

 

 

意思を持った 家具たち 迷い込んだ人間

f:id:tkhskor:20180128163912j:plain

 

「Everything Flows」の展示室を抜けると「パレード(旧名:大船フラワーセンター)」を見ることができます。こちらは過去すでに発表された作品のようです。

部屋全体が黄色よりのオレンジの空間になっており、機械を使って家具たちが動いています。

その動きは一定のリズムに刻まれながら、とても有機的です。

まるで家具たちが意思を持ってパレードを行っていて、その空間に人間は迷い込んでしまったようです。

ディズニーの「不思議の国のアリス」に花たちの中にアリスが入り込むシーンがあります。はじめは仲良く歌を歌いますが、最終的に「雑草」扱いされ虐められるシーンです。

本作もそう行った「違う世界に紛れ込んだ」という雰囲気があります。

どこか人間は家具たちとは違った異物。ほんの少しだけ小馬鹿にされている感覚。

家具たちの自由を邪魔できない無力さ、でも寂しさは感じさせない作品です。

 

家具でありながら、どこか植物を連想させるのは、これが大船フラワーパークからインスピレーションを得ているからだと思います。元ネタが有機的な世界だから、「家具たち=生き物」というのに違和感がないのだと思います。

(私も大船フラワーパークに行ったことがありますが、昭和感の残るいいパークです)

 

身長計に鉄琴が乗っかっていて音を奏でているのは、なかなか面白かったです。

小物のちょっとしたセンスも好きでした。

 

「完璧でないもの」に美しさを見出す

 

最後の展示は「モレモレ:ヴァリエーションズ」。

初めて見たとき、雨水やエアコン水を思い出しました。

パンフレットに説明されていましたが、駅の構内でよく見る水漏れ現場にインスピレーションを得てこの作品を生み出したそうです。

(J Rやメトロによくある、雨水をホースやビニールで集めて、バケツなどに落としているやつです)

毛利さんは水漏れ現場の駅員さんの「器用仕事」に目を向け「用の美」として芸術作品にしたそうです。

ホース内を水が流れる様はとても心地よいです。

f:id:tkhskor:20180128164348j:plain

f:id:tkhskor:20180128164439j:plain

 

 

またこの作品はワークショップを行いながら作成されたようです。

パンフレットには

「水漏れという“危機”があれば、誰でもそれに応じることで彫刻作品ができる」という仮説のもと行われたワークショップ。

人為的に水漏れを起こした上で、複数名の共同作業によってそれに対処することで、即興的に制作されたインスタレーション」とありました。

 

流動的な水に対処する中で、生まれてくる機能的な美しさ。

 

作家の感覚ではないところから、美しさを生み出せるというのは、「なかなか開けているなー」と思います。

「全ては雨水の意思」なのに、そこには人間の判断、工夫、知恵の出し合いなども含まれてくる。人にも作品にも優しいワークショップだと思います。

 

個人的に私も駅の水漏れ対応好きです。

あれは人間の「不完全さ」でもあると思います。

雨風をしのぐように建築された駅が「自然の力」に侵食されてしまっている姿。

しかし、そこに駅員さんの丁寧な「対応」が入ってくることで

「不完全さへの包み込み。自然の力と共存する意思」を見ることができるような気がします。駅員さんリスペクトです。そして、あのシーンを作品にした毛利さんリスペクトです。

 

 

この展示は本日が最終日です。

最終日のお昼ごろの空は曇り空。

記録的な寒波に襲われた関東は、いつもの冬以上に寒く、冷んやりしています。

でもその冷んやりの中に、彼女の作品はとてもよく生えました。

(もちろん室内はあったかい)

 

きっと無機質の中に有機質を見つけるような暖かい作品群だからでしょう。

 

 アートスペースの案内によると、毛利さんの活躍は目覚ましく、日産アートアワードグランプリ(2015)や、神奈川文化賞未来賞(2016)、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞[メディア芸術](2017)を受賞しています。

毛利悠子 グレイ スカイズ|藤沢市アートスペース|Fujisawa City Art Space

 

 

藤沢アートスペースは予備校の後輩の瀬川祐美子さんが支援プロジェクトに

選ばれているなど、何だか「いいなー」と思えるギャラリーです。

 

 

 f:id:tkhskor:20180128173345j:plain

 

瀬川さんの展示も拝見しているのですが、その時は感想をアップできませんでした。

ぜひまた瀬川さんの展示をやってほしいです。

f:id:tkhskor:20180128173559j:plain