Art and Face

アートの輝きを見つけるブログ

ときの移り変わりを知ることで 現れる芸術性を追い求める 平川恒太さんに話を聞いて

 

f:id:tkhskor:20150812015311j:plain

Artist 
平川恒太hirakawakouta

 

19歳のころから、数々の公募に入選し、多摩美術大学在学中には、すでにプロのアーティストとして活躍していた画家・平川恒太氏。
歴史や社会の問題に真っ正面から向き合い、現代美術と絵画の架け橋とも言える作品を日々生み出している。
今回は江ノ島に滞在し、地元の方に取材を行うなど、その場の歴史を深く追求し制作にあたる彼に密着取材。プロとしての使命感を内に抱き、活動を続ける平川氏だが、戦争をテーマに制作する理由は意外なものであった。取材日2014年5月30日江ノ島「儚き絵画の夢」制作の現場をお届けします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

人の気持ち、息づかいを残せるメディア
絵画の可能性

―絵を描き始めたきっかけを教えていただけますか? 
父が芸術を好きな人で、よく美術館に連れて行ってくれたんです。だから小さいころから、絵画に興味がありましたね。見ていると子どもながらに好きな画家や好きになれない画家がいて、僕が特に好きだったのはクールベでした。

「画家になろう」と本気で決めたのは、予備校生のとき。東京ワンダーシードに入選して、それをきっかけに作家友達がたくさんできたんです。みんなすごく苦労して作家活動を続けていて、その姿を見て「本気でやろう」と決心が固まりました。


ー様々な表現手段があるなかで絵画を選んだ理由は?
僕は絵画はメディアとしてもとても優れていると思うんです。写真や映像は記録する手段としては優秀だけど、絵画はもっと様々な思いを残せる。例えば、藤田嗣治戦争画を見ても、筆の息づかいがまじまじと感じられて、いろいろな感情を読み取れます。

失われる記憶をつなぎ止める力が絵画にはあると思うからこそ、続けたいし、模索したいと思っています。

ただ今作の「儚き絵画の夢」出品作品では、今までと少し違って、映像で絵画を表現しました。「タブローの四角い世界のなかで描かれるものだけが絵画というのだろうか」と疑問を抱いて「絵を作っている過程を絵画と呼ぶこともできるんじゃないか」と考えたんです。

そのため江ノ島の風景や観光客を撮影したり、地元の方に取材を行い撮影すると同時に、海岸に落ちている漂流物から砂浜に絵を描いて、それが波にさらわれていく過程も撮りました。「儚き絵画の夢」では、取材した映像と制作過程を撮影した映像の二つを連動させて、江ノ島という場所を表現してみようと思っています。 

ー制作中、困難だった部分はありますか?
江ノ島は潮の満ち引きで、撮影できる景色とか、随分変わってしまうから、事前準備は念入りに行いました。でも実際に始めて見ると考えもしなかったアクシデントはたくさんありました(笑)。例えば撮影中に浜辺に清掃が入ったりして、「あとで片付けるんで、ここだけは待って下さい!」とお願いして、なんとかなりましたね。

f:id:tkhskor:20150812015307j:plain

砂浜に絵を描く平川氏

 

現地を見つめる目線は「観光者」として
自分の立ち位置を捉えて


ー取材対象はどのように選ばれていますか?また、始めたきっかけは?
取材対象は日々の生活で知ったことのなかで直感的に選んでいますが、江ノ島 に興味を持ったのは、友人から江ノ島第二次世界大戦時に軍事要塞だったと聞いて取材を行った際、お土産物屋のおじいさんと知り合い戦中の江ノ島の記 憶を聞きインスピレーションが湧きました。

アーティストとして本格的に滞在制作を始めたのは、2014年春に沖縄で展覧会 をしたときからですね。沖縄の歴史や戦争体験のことは、19歳の時、初めて ひめゆりの塔を訪れ、戦争生存者の生の声を聞いた時から関心がありました。しかし、学んだ事をただ描く事等に抵抗がありなかなか作品にはなりませんで した。今年、沖縄での滞在制作が決まったとき、この機会にきちんと取材したことを作品にしようと決めたんです。

今までも制作のなかで取材みたいなことは自然とやっていた気がしますが、スタジオワークが多かった自分が滞在制作で現場のリサーチをしながら制作するというのは新鮮な体験でした。


ー取材を行うときに気にかけていることなどありますか?
僕はその土地で生まれ育ったわけじゃないから、あくまで外から来た「観光者」 という立場で作品を作ろうと思っています。土地の人の気持ちは本当の所分からないから、その立ち位置で作品を作ったら、どこか嘘っぽくなってしまうでしょ? 
反対に観光者という立ち位置をしっかり定めて、作品を作れば、土地に深く関わることが可能だと思ったんです。

今回の江ノ島でも、一観光者として撮影しているなかで多くの出会いや発見がありました。お土産物店の江ノ島で生まれ育った御年 80 歳のご主人には、江ノ島の裏手の岩場を案内してもらい、戦争の名残をたくさん見させていただきました。防空壕だとか、砲台址だとか、砲弾の穴など。江ノ島の戦中戦後の記憶 を教えていただきました。
取材をする中で現在の江ノ島とのギャップには考えさせられました。今は観光 地で賑わっている場所が、ちょっと前は日本軍の基地だったり、江戸時代まで は江ノ島詣でなどの信仰の場であったり.僕はこういう記憶をたとえ観光者的な立ち位置からであっても継承することが 今重要だと思うのです。

 

僕はもともと歴史が好きで、特に戦時中の記憶には深い関心があります。戦争をテーマとして意識しているというより、自然とそちらに意識が向いてしまうんですよね。

なぜなら戦時中の記憶って実際に体験した人から、話を直接聴けますよね。縄文時代の様子を聞けないのはしょうがないけど、教えてもらえば知ることができる世代の声に無関心なのはすごく寂しいと思うんです。

 


 
手を伸ばせば触れることができる歴史だからこそ、戦時中の記憶に手を伸ばしたいと思っています。 だって次の世代の人たちは、生存者の声を直接聞けないんですから、僕たちが語り継がなくちゃいけないことだと思うんです。

f:id:tkhskor:20150812015528j:plain

(右写真)江ノ島の方にインタビューを行う平川氏


―最後に平川さんが画家として心がけていること、
また画家を目指す学生へメッセージをお願いします。
僕は毎回の展覧会に向けて120パーセントの力で制作を行っています。100パーセントじゃなくて、120パーセント。とことん頑張ってやったことって、例え失敗してしまても必ず何かが自分のなかに残るんです。発見だったり、次への活力だったり……。だからこそ、僕は毎回全力投球で、制作をしようと心がけています。

プロの画家を目指す人は、歴史をしっかり学んで、自分の立ち位置をまず見つけて欲しいですね。過去を学ぶと、今の時代の人間として、何をしなくちゃいけないのかを冷静に考えることができるし、何が失われたのか知ることができる。「次の世代に残すべきものは何か」が分かるようになると思うんです。そうやって先人たちが築いてきた歴史を継ぐことこそ、僕はプロの画家の役割じゃないかなと思っています。

今「美しい」とか、「きれい」とか、どんどん言葉が少なくなっているなーと感じて、そういうのに危機感を感じる。美しいものを、美しいと言えない価値観はやっぱり怖い。そういう心を育むためにも、芸術は必要で大切に守らなきゃ行けないモノだと思っています。

 

“儚き絵画の夢”
平川 恒太
前期:2014年6月21日(土)~7月6日(日)
後期:2014年7月12日(土)~ 7月27日(日)
12:00~19:00 月・火休廊
会場:Bambinart Gallery
東京都千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 B107
TEL:03-6240-1973

前期出展作品

f:id:tkhskor:20150812015650j:plain f:id:tkhskor:20150812015654j:plain

期出展作品

f:id:tkhskor:20150812015647j:plain

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

展覧会の詳しい情報はコチラ

平川恒太プロフィール
1987 高知県生まれ
2006 埼玉県立大宮光陵高等学校美術科 卒業
2011 多摩美術大学 美術学部 絵画学科 油画専攻 卒業
2012 東京芸術大学 大学院 絵画専攻 修士課程 修了


【主な展示】 
個展
2014
「儚き絵画の夢」Bambinart Gallery(東京)
2013
「Trinitite ―けいしょうされぬ記憶と形―」Bambinart Gallery(東京) 
「GOLDEN COMPETITION 2012 大賞者展 ” 水のゆくえ”」Turner Gallery(東京)
2012 
「平川恒太展」アートフェア東京2012(Bambinart Galleryブース)(東京)
2011
「豊かな絵画と、豊かな世界」Bambinart Gallery(東京)
「FOXのちから」Bambinart Gallery(東京)
ANA MEETS ART」羽田空港ラウンジ(東京)
2010
「The Neverending Story -Hirakawa Kota Solo Exhibition」原爆の図 丸木美術館、埼玉
「平川恒太『考え・ない』」Turner Gallery(東京)
2009
「“人間、自然、社会” 平川恒太展」GALLERY at lammfromm(企画 bambinart promotion)
2006
「平川恒太展」Cafe lamp(東京)

グループ展
2014
東大宮アートフェスティバル」東大宮駅周辺施設(埼玉)
VOCA展2014」上野の森美術館(東京)
「Let’s Pink! 4」gallery ラファイエット(沖縄)
2013
「アートがあればII ─ 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」東京オペラシティ アートギャラリー(東京) 
「トーキョーワンダーウォール公募2013入選作品展」東京都現代美術館(東京) 
「アートアワードトーキョー丸の内2013」行幸地下ギャラリー(東京) 
「東京、トウキョウ、TOKYO」Bambinart Gallery(東京) 
「損保ジャパン美術賞展 FACE2013」損保ジャパン東郷青児美術館(東京) 
「ゴールデンコンペティション2012」OAPアートコートギャラリー(大阪) 
「ゴールデンコンペティション2012」ターナーギャラリー(東京) 
2012
「Keep A Breast」表参道ヒルズ(東京) 
「NULL POINT」 東京藝術大学絵画棟1F(東京) 
2011 
「THE COLOR OF FUTURE」TURNER GALLERY(東京) 
「アートが山をのぼること」日蓮宗大本山清澄寺・釈迦寺(千葉) 
「第2回、道徳展」Art Center Ongoing(東京) 
2010 
「本郷芸術スター誕生」 AiCOLORS FACTORY(東京) 
「ひとひと」Bambinart Gallery(東京)
2009 
「道徳展」Turner Gallery(東京) 
「NEGAPOP展」シンワアートミュージアム(東京) 
「電車展」山手線外回り二両目(東京) 
「ヒーロー展」Turner Gallery(東京) 
「時々」Turner Gallery(東京) 
「混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバル2009」わくわく混浴アパートメント(大分)
2008 
「THE SIX」代官山ヒルサイドテラス(東京) 
「VIA ART」 シンワアートミュージアム(東京) 
「Curriculum Vitae 」ワダファインアーツ(東京) 
「群馬青年ビエンナーレ群馬県立美術館(群馬) 
GEISAI ミュージアム#2」東京ビッグサイト(東京) 
「東京ワンダーシード2008」ワンダーサイト渋谷(東京) 
「KOTOBUKI CREATIVE ACTION2008」(神奈川) 
2007
「THE SIX」赤レンガ倉庫(神奈川) 
「東京ワンダーシード2007」 ワンダーサイト渋谷(東京) 
「アサヒ・アートフェスティバル渡良瀬アートプロジェクト」足尾渡良瀬社宅(栃木) 
2006
GEISAI#10」東京ビッグサイト(東京) 

【主な受賞】
2013「アートアワードトーキョー丸の内2013」三菱地所賞、「FACE2013 損保ジャパン美術賞展」審査員特別賞
2012「ゴールデンコンペティション2012」ゴールデン賞(グランプリ)
2011「福沢一郎賞」
2009「ゴールデンコンペティション2009」優秀賞
2008「VIA ART2008」EFD KURATA賞、「東京ワンダーシード2008」入選
2007「東京ワンダーシード2007」入選